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大阪地方裁判所 昭和45年(行ウ)29号 判決 1977年12月16日

大阪市生野区桃谷三丁目二番二六号

原告

外村肇

外村肇

外村紘八郎

外村妙子

右原告ら訴訟代理人弁護士

葛井重雄

葛井久雄

大阪市生野区猪飼野中八丁目七番地

被告

生野税務署長

橋本房利

右指定代理人

辻井治

原田清

池田忠男

大河原延房

佐野八朗

主文

一、 被告が昭和四二年九月二一日付で原告ら被相続人外村喜一郎に対し、

1  大阪市生野区猪飼野東一丁目一一番地の製造場から移出した第一種および第三種まあじやんについて別表一(A)更正欄のとおりなした昭和四〇年四月分ないし昭和四一年八月分までのトランプ類税更正処分ならびに過少申告加算税賦課決定処分(いずれも同表(A)裁決欄記載のとおり昭和四五年四月二一日付裁決により一部取消された後のもの)を、

2  同区猪飼野西二丁目一四番地の製造場から移出した第一種および第三種まあじやんについて別表一(B)更正欄記載のとおりなした昭和四一年八月分および九月分のトランプ類税更正処分ならびに過少申告加算税賦課決定処分(いずれも同表(B)裁決欄記載のとおり昭和四五年四月二一日付裁決により一部取消された後のもの)を、

いずれも取消す。

二、 訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、 当事者の求めた裁判

一、 原告ら

主文同旨。

二、 被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、 当事者の主張

一、 原告らの請求原因

1  原告らはいずれも亡外村喜一郎の相続人であり、喜一郎は昭和四一年八月半ばまで大阪市生野区猪飼野東一丁目一一番地の製造場(旧製造場)で、それ以後は同区猪飼野西二丁目一四番地の製造場(新製造場)でまあじやん牌製造業を営んでいた者である。

2  喜一郎は被告に対し、右各製造場から移出した第一種および第三種まあじやんについて、別表一(A)および(B)申告欄記載のとおり、昭和四〇年四月分ないし昭和四一年八月分(旧製造場から移出したもの)ならびに同年八月分および九月分(新製造場から移出したもの)のトランプ類税の申告をした。

3  被告は喜一郎に対し、昭和四二年九月二一日付で、原告が前項の期間(以下、これを本件対象期間ということがある。)中に製造場から移出した第一種および第三種まあじやんについて別表一(A)および(B)更正欄記載のとおり更正処分ならびに過少申告加算税賦課決定処分(以下、これらを総称して本件更正処分という。)をした。

4  喜一郎は被告に対し、昭和四二年一〇月七日、本件更正処分に対し異議申立をしたが棄却されたので、さらに昭和四一年一二月一八日大阪国税局長に対し審査請求を申立てたところ、同局長は昭和四五年三月一九日付をもつて、喜一郎の相続人である原告らに対し別表一(A)および(B)裁決欄記載のとおり本件更正処分を一部取消す旨の裁決をした。

5  しかるに、被告のした本件更正処分(裁決により一部取消された後のもの)は、いずれも課税標準たる第一種および第三種まあじやんの移出組数を過大に認定したもので違法である。

二、 請求原因に対する認否

請求原因第1項ないし第4項は認め、第5項は争う。

三、 被告の主張

1  第一種まあじやんについて

(一) 第一種まあじやんの課税標準

(1) 喜一郎は昭和四〇年四月一日現在、第一種まあじやんの在庫を一組有していた。

(2) 同人は本件対象期間中に別表二完成品移入数量欄記載のとおり第一種まあじやんの完成品を計三組未納税移入した。

(3) 同人はまた右期間中に別表二製造数量欄記載のとおり、第一種まあじやんを計五六組製造した。

(4) 従つて、右期間における第一種まあじやんの移出可能数量は別表二完成品移出可能数量欄記載のとおり計六〇組となる。

(5) 他方、喜一郎は本件対象期間中において別表二未納税移出数量記載のとおり第一種まあじやんを計二三・五組未納税移出した。

(6) 喜一郎は昭和四一年九月末日現在、第一種まあじやん三・五組の在庫を有していた。

(7) よつて、前期完成品移出可能数量六〇組から未納税移出数量二三・五組および昭和四一年九月末日における在庫数量三・五組を差引くと本件対象期間中の課税移出数量は計三三組となる。

(8) そこで被告は、被告調査に係る移出数量(三三組)と申告に係る数量(二一組)との差一二組につき、製造数量および申告数量を勘案して別表二被告調査額課税移出数量欄内記載脱ろう数量のとおり移出されたものと認め、同欄のとおり更正した。

(二) 右推計の合理性

右推計のうち、製造数量は喜一郎の従業員であつた彫刻師宮川清の手帳に記載されていた彫刻数量に基づいたものであり、昭和四一年九月末における在庫数量は原告ら主張に係る出入帳記載の残高によつたものであつて、右推計は合理性を有するものである。

2  第三種まあじやんについて

(一) 第三種まあじやんの課税標準

(1) 喜一郎は本件対象期間中に、第三種まあじやんを次のとおり少なくとも八六四〇組製造した。

(ⅰ) 尿素使用高による推計

本件対象期間中における第三種まあじやんの原料である尿素の仕入高は左表のとおりである。

<省略>

右の仕入数量合計一二一六〇キログラムに昭和四〇年四月一日現在の手持数量二一〇キログラムを加え、その合計数量から同業者玉田元次外一名へ転売した三七〇〇キログラムと昭和四一年九月末日現在の残高三〇キログラムを差引いた八六四〇キログラムが喜一郎が本件対象期間中に使用した尿素の総数量である。

ところで、尿素一キログラムから少なくともまあじやん一組を製造することができるから、右尿素の使用高によれば、まあじやん八六四〇組が製造されたものと認定しうる。

(ⅱ) 竹材使用高による推計

喜一郎が本件対象期間中に仕入れた竹材は左表のとおりである。

<省略>

右の仕入数量に昭和四〇年四月一日における手持数量アリ切り一五二組を加え、その合計数量から同業者玉田元次および山本宗一に転売したアリ切り四六六三組、昭和四一年九月末日における残高長竹二二四組を差引いた長竹三一〇七組、寸切り五三六四組、アリ切り八八一組が喜一郎が本件対象期間中に使用した竹材の総数量である。

ところで、竹材の使用高とまあじやん製造高との関係については竹材の種類によつて相異があるが、その歩留りは長竹八五%、アリ切りおよび寸切り九八%である。そこで、この数値をもとにまあじやん製造高を推計すると、

(イ) 長竹使用高三一〇七組の八五% 二六四〇組

(ロ) 寸切り使用高五三六四組とアリ切り使用高八八一組の計六二四五組の九八% 六一二〇組

となり、(イ)および(ロ)の合計八七六〇組のまあじやん(第一種、第二種および第三種合計数量)が製造されたものと認められる。そして右数量から第一種および第二種のまあじやんの製造移出数量(第一種五六・五組、第二種一組計五七・五組)を差引いた八七〇二・五組が第三種まあじやんの製造高と認められる。

(ⅲ) 竹材使用高による推計数量八七〇二・五組と尿素の使用高による推計数量八六四〇組と比較すると後者の方が六二・五組少なく、納税義務者にとつて有利であるので、尿素の使用高による推計数量を、本件対象期間中における第三種まあじやんの総製造数量と認定した。

(2) 喜一郎は、本件対象期間中において、玉田元次外数名から合計七九八八組の第三種まあじやんを未納税移入した。

(3) 喜一郎は右期間中において、別表三原告申告額欄および被告調査額欄中の各未納税移出数量欄記載のとおり、第三種まあじやん三七五七組を未納税移出した。

(4) 同人はまた、トランプ類税法八条二項、同法施行令六条二号の規定に基づく被告の適用除外の承認を受けないで、同期間中に別表三被告調査額欄中の適用除外承認洩れ欄記載のとおり計六一組を移出した。

(5) ところで、喜一郎は、別表三原告申告額欄中の移出数量合計欄記載のとおり申告をした。右申告総数量一三〇八二組に対する各月の移出数量比を求めると、別表三原告申告額欄中の月別割合欄記載のとおりとなる。

(6) 被告は、前記(1)および(2)の合計総移出可能数量一六六二八組を右(5)の移出数量比に従つて、月別配分計算をし、別表三被告調査額欄中の各月の移出数量欄の数量を算出した。

(7) さらに右(6)の数量から前記(3)の未納税移出数量を控除して別表三被告調査額欄中の差引課税移出数量欄の数量を算出した。

(8) ついで、右(7)の数量に前記(4)の適用除外承認洩れ数量を加え別表三被告調査額欄中の課税標準数量欄記載の数量を算出した。この数量が課税標準となるべき数量である。

(9) 裁決によつて維持された各月の課税標準数量は、別表三裁決で維持された原処分欄記載のとおりである。

(10) 前記(8)と(9)の各月の数量を比較し、いずれか少ない方を示したのが別表三被告主張課税標準額欄記載の数量で、被告は本訴において右数量を課税標準数量として主張する。

(二) 第三種まあじやん製造数量の推計の必要性および合理性

(1) 推計の必要性

被告が喜一郎に対し、昭和四〇年四月分から昭和四一年九月分までのトランプ類税調査を行なつたところ、同人は株式会社台和大阪営業所から第三種まあじやんの原料である尿素を仮装名義(生上樹脂工業所、猪飼野樹脂工業所)で仕入れながら、その事実を明らかにする仕入先発行の納品書等の保存および所定関係帳簿の記載をしておらず、また第三種まあじやんを自己の製造場から移出(販売)しながら、その販売事実を明らかにする納品書(控)等の保存および関係帳簿の記載をしていなかつたものであつて、このように意識的に伝票類の保存および関係張簿の記載をしない状況においては真実の製造・移出の事実を把握することができず、従つて右帳簿を正確な課税資料とすることはできない。さらに喜一郎は当初から仕入先従業員に指図等して仕入事実を隠蔽し、そのため本件に関して協力を得ることは不可能であり、これを放置することは租税負担の公平を害することとなるので、推計課税によつたものである。

(2) 推計の合理性

被告は主要原料である尿素および竹材の消費量から製造高を推計した。

(ⅰ) 主要原材料である尿素については、前記のように本件対象期間中、喜一郎が消費した尿素を八六四〇キログラムと認定した。

(ⅱ) 右尿素に対する製品の歩留りについては前記のとおり喜一郎備付帳簿の記張内容が不正確で、信憑性が認められないので、原告と類似した原材料を使用しまあじやん牌を製造している同業者三名を選定し、担当税務職員を立会わせ、まあじやん牌製造調査を実施して製品の歩留りを把握したが、そのうち、原告に最も有利と認められる歩留りであるまあじやん一組当り尿素使用数量一キログラムとの結果を採用した。

(ⅲ) 右(ⅰ)(ⅱ)により、原告の製造数量を、本件対象期間中の尿素使用高八六四〇キログラムを一キログラムで除して得た数量である八六四〇組と推計したものである。

四、 被告の主張に対する原告らの認否

1  第一種まあじやん

(一) 被告の主張第1項(一)の事実中、(2)、(5)および(8)のうち被告が別表二のとおり更正したことは認め、(3)、(4)、(6)、(7)および(8)のうちその余は争う。昭和四一年九月末日現在における在庫数量は、一七・五組である。

(二) 同項(二)は争う。

2  第三種まあじやん

(一) 同第2項(一)の事実中、(1)(ⅰ)のうち喜一郎が氏野産業(株)から尿素を九〇六〇キログラム仕入れたこと、昭和四〇年四月一日現在の手持数量が二一〇キログラムであること、(1)(ⅰ)のうち喜一郎がアリ切り(竹)を五三九二組仕入れたこと、(5)のうち、喜一郎が別表三原告申告額欄中の移出数量合計欄記載のとおり申告をしたことは認め、その余の事実は争う。

(二) 同項(二)はすべて争う。

五、 原告らの反論

1  第一種まあじやん

(一) 本件対象期間中において喜一郎が製造した第一種まあじやんは五九組、完成品の未納税移入数量は三組で合計六二組が移出可能数量である。

(二) これに対し、右期間中における未納税移出数量は二三・五組(二三組と七〇個)、昭和四一年九月末日現在における在庫数量は一七・五組(一七組と七四個)であるから課税移出数量は二一組となる。従つて、喜一郎の申告数量に誤りはない。(昭和四一年九月末日における在庫数量について、喜一郎は当初三・五組と主張していたが、これは仕入高の計算の誤りによるものであり、これを一七・五組と主張を訂正する。)

2  第三種まあじやん

(一) 喜一郎が本件対象期間中に製造した第三種まあじやんは次のとおり五一九三組である。

(1) 喜一郎は右期間中、氏野産業株式会社から尿素を計九二七〇キログラム(昭和四〇年四月一日現在の在庫を含む)仕入れ、そのうち三五〇〇キログラムを他へ転売したから差引五七七〇キログラムを使用消費したのであるが、尿素一〇キログラムにつき第三種まあじやん九組を製造することができるから、結局右期間中に五一九三組を製造したことになる。

(2) 喜一郎は右期間中、アリ切り(竹)を五三九二組、寸切り(竹)を六三五五組仕入れ、そのうちアリ切り三九八八組を他に売渡した。そして喜一郎が使用した竹材のなかで、アリ切り一四〇四組のうち一割の一四〇組、寸切り六三五五組のうち四割の二五四二組がそれぞれ不良であつたから、製造しえたのはアリ切り一二六四組、寸切り三八一三組であり、結局合計五〇七七組を製造することができた。

(3) 右のうち、原告らに不利な数量を採用し、喜一郎は本件対象期間中に第三種まあじやん五一九三組を製造したものと主張する。

(二) 喜一郎は右期間中に第三種まあじやん七九〇二組を未納税移入した。

(三) また同人が右期間中に未納税移出した第三種まあじやんの数量は三五〇七組である。

(四) 従つて右(一)および(二)の合計数量(移出可能数量)から(三)および昭和四一年九月末日における在庫数量三九二組を差引いた九一九六組が本件対象期間中の課税移出数量である。

第三、 証拠

一、 原告ら

1  甲第一号証の一、二、第二ないし第九号証

2  証人氏野宇三郎、同谷本忠、原告外村修本人(第一、二回)

3  鑑定人川北一義

4  乙第八号証の成立は認め、その余の乙号各証の成立はいずれも不知。

二、 被告

1  乙第一号証の一、二、第二、第三号証、第四号証の一、二、第五、第六号証の各一ないし四、第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇ないし第一二号証

2  証人藤田宏、同平田信行、同南和夫、同深江収一(第一、二回)、同谷本忠、同川北一義、同国部菊次郎

3  甲第七、第八号証の成立は不知。その余の甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

一、 請求原因第1項ないし第4項の事実は全部当事者間に争いがない。そこで、本件更正処分の適法性につき判断する。

二、 第一種まあじやんの課税標準

1  喜一郎が昭和四〇年五月および九月に別表二完成品移入数量欄記載のとおり第一種まあじやんの完成品を計三組未納税移入したこと、同人が本件対象期間中に同表未納税移出数量欄記載のとおり第一種まあじやんを計二三・五組未納税移出したことは当事者間に争いがない。

2  昭和四〇年四月一日現在の在庫数量が、少なくとも一組あつたことを原告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

3  証人深江収一の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第三号証によれば、喜一郎の従業員宮川清(手彫まあじやんの彫刻職人)が本件対象期間中に別表二製造数量欄記載のとおり第一種まあじやんを計五六組製造したことが認められ、原告外村修本人尋問の結果(第一回)中、右認定に反する部分は右乙第三号証および証人深江収一の証言(第一回)に照らし信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

4  以上の事実によれば、喜一郎の製造場からの本件対象期間中における第一種まあじやんの移出可能数量は計六〇組となるが、これから前記未納税移出数量二三・五組を差引いた三六・五組が課税の対象となりうる移出可能数量となる。

5  本件全証拠によるも本件対象期間の期末(昭和四一年九月末日)の在庫数量が原告主張の数量である一七・五組よりも少いことを認めるべき証拠はない。そうすると、前項に認定した移出可能数量三六・五組から原告主張の期末在庫数量である一七・五組を差引いた残余が課税移出数量となるべき筋合いであるところ、この数量が原告申告にかかる課税移出数量(二一組)を超えないことは明らかである。

6  よつて本件更正処分中、第一種まあじやんにつき原告申告にかかる課税移出数量二一組を超える三三組の移出(脱ろう数量一二組)があると認定し、これを前提に課税した部分は違法である。

三、 第三種まあじやんの課税標準

1  第三種まあじやんの製造数量

(一)  尿素使用高による推計

(1) 喜一郎が本件対象期間中に氏野産業株式会社から尿素を九〇六〇キログラム仕入れたこと、昭和四〇年四月一日の在庫が二一〇キログラムであつたことは当時者間に争いがない。

(2) 被告は、喜一郎が氏野産業株式会社以外に株式会社台和大阪営業所から尿素を仮装名義(猪飼野樹脂工業所、生上樹脂工業所)で計三一〇〇キログラム仕入れた旨主張し、成立に争いのない乙第八号証、証人谷本忠の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の二、第二号証中には右主張に沿う記載部分、証人藤田宏の証言中には右主張に沿う供述があるが、これらはいずれも証人谷本忠の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第七、第八号証、証人谷本忠、同氏野宇三郎の各証言、原告外村修本人尋問の結果(第一回)に照らし信用することができず、他に右主張を認むべき証拠はない。

(3) 成立に争いのない甲第五、第六号証および原告外村修本人尋問の結果(第一回)によれば、喜一郎は本件対象期間中に右仕入れた尿素のうち計三七〇〇キログラムを同業者玉田元次外一名へ転売したことが認められる。

(4) 昭和四一年九月末日現在における尿素の在庫は、本件全証拠によるもこれを確定することができないから、本件対象期間中に喜一郎が使用消費しえた尿素の総数量の最高限は、仕入量九〇六〇キログラムと当初の在庫二一〇キログラムとの合計数量から転売分三七〇〇キログラムを差引いた五五七〇キログラムであると認められる。

(5) 被告は、尿素一キログラムあたり少なくとも第三種まあじやん一組を製造することができる旨主張し、証人平田信行の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証の一、二、証人南和夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証の一ないし四、証人深江収一の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第六号証の一ないし四ならびに証人平田信行、同南和夫、同深江収一(第一回)の各証言中には右主張に沿う部分があるが、これらはいずれも国税局担当係官立会の下に喜一郎と同業者であるまあじやん牌製造業者の製造場において実施された検査の結果に関するものであるところ、右検査は成形した尿素樹脂に竹材を接着して図柄を彫刻したまあじやん牌の素材(半製品)一組を製作するためには尿素を何グラム使用するかについてのものであつて、彩色、磨き等の仕上加工を経て商品価値のあるまあじやん牌を製造するまでにはまだかなりのロス(たとえば不良品が出るなど)が発生するものと考えられるから、右検査の結果をもつて直ちに商品価値を有するまあじやん牌の製造数量と推計することはできない。

一方、鑑定人川北一義は、尿素一キログラムあたり商品価値を有する第三種まあじやん〇・五三組を製造できるものと鑑定しているけれども、右鑑定の結果も継続して製造する場合には製造できる組数がこれよりも若干上回る可能性を否定するものではないこと及び原告外村修本人尋問の結果(第一回)によれば、喜一郎の製造場では尿素一キログラムあたり第三種まあじやん〇・九組を製造できることが認められ、右事実によると、前記使用した尿素から第三種まあじやん五〇一三組(最高限)を製造しえたことが推認され、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  竹材使用高による推計

(1) 成立に争いのない甲第三、第四号証、前記甲第五、第六号証および原告外村修本人尋問の結果(第一回)ならびに弁論の全趣旨によれば、竹材の仕入数量が被告の主張2(一)(ⅰ)(ⅱ)の表のとおりであること(このうち、アリ切り竹を足立商店から計五三九二組仕入れたことは当事者間に争いがない。)、昭和四〇年四月一日現在における手持数量がアリ切り竹一五二組であること、喜一郎は仕入れと在庫の合計数量から同業者玉田元次および山本宗一にアリ切り竹四六六三組を転売したこと、昭和四一年九月末日における在庫数量は長竹二二四組であつたことが認められ、右事実によれば喜一郎が本件対象期間中に使用消費した竹材の総数量は長竹三一〇七組、寸切り竹五三六四組、アリ切り竹八八一組であることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(2) まあじやん牌の製造過程における竹材の歩留り率についてみると、前記鑑定の結果および原告外村修本人尋問の結果(第一回)によれば、寸切り竹、長竹の歩留り率は六割、アリ切り竹の場合はロスが少なく九割の歩留り率であることが認められ、証人南和夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証の一、二および証人南和夫の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(3) そして右歩留り率によれば、長竹、寸切り竹から五〇八二組、アリ切り竹から七九二組計五八七四組分のまあじやん牌が製造しえたことが認められる。

(4) 右総製造数量から前記第一種まあじやんの製造数量五六組を差引いた五八一八組が竹材使用高による第三種まあじやんの推計製造数量である。

(三)  右(一)および(二)で認定したところを比較すると、尿素使用量による推計数量である五〇一三組(最高限)の方が竹材使用高による推計数量よりも少ないが、現実の製造可能数量は数量の低い方によるのが相当であるから、結局喜一郎は本件対象期間中に第三種まあじやんを計五〇一三組(最高限)製造したものと認めるべきである。

2  第三種まあじやんの移入数量

前記甲第三、第四号証および原告外村修本人尋問の結果(第一回)によれば、喜一郎が本件対象期間中に玉田元次外九名から合計七九六四組の第三種まあじやんを別表四記載のとおり未納税移入したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

3  第三種まあじやんの総移出可能数量

本件全証拠によるも、昭和四一年九月末日における第三種まあじやんの在庫数量が原告主張の三九二組よりも少いことを認めるべき証拠はないから、喜一郎が本件対象期間中にその製造場から移出した第三種まあじやんは、右1の製造数量五〇一三組(最高限)と2の移入数量七九六四組との合計である一二九七七組(最高限)から、右在庫数量三九二組を差引いた数量であり、この数量が原告申告にかかる移出数量(一三〇八二組)を超えないことは明らかである。

4  第三種まあじやんの未納税移出数量

前記甲第五、第六号証、原告外村修本人尋問の結果(第一回)および弁論の全趣旨によれば、喜一郎は本件対象期間中に別表三原告申告額欄中の未納税移出数量欄記載のとおり第三種まあじやん計三七五七組を未納税移出したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

5  被告は、喜一郎がトランプ類税法八条二項および同法施行令六条二号の規定に基づく被告の適用除外の承認を受けないで、本件対象期間中に別表三被告調査額欄中の適用除外承認洩れ欄記載のとおり計六一組を移出した旨主張するが、本件全証拠によるも、右主張を認めることができない。

6  喜一郎が別表三原告申告額欄中の移出数量合計欄各記載のとおり、その製造場から移出した第三種まあじやんの数量(本件対象期間中の総移出数量及び各月の移出数量)を申告したことは当事者間に争いがなく、そして右申告数量一三〇八二組(総移出数量)に対する各月の移出数量比を算出すると同表原告申告額欄中の月別割合欄記載のとおりとなるところ、右申告数量一三〇八二組を超えないことの明らかな3項説示の移出数量に右月別割合欄記載の各月の移出数量比を乗じて得た各月移出数量が原告申告にかかる各月移出数量を超えないことは云うまでもない。

7  以上のとおりであるから、3項説示の右移出数量から4項の未納税移出数量を控除した数量が別表三原告申告額欄中の課税移出数量欄記載の数量を超えないことも明らかである。それゆえ、本件更正処分中、第三種まあじやんにつき原告申告の課税移出数量九三二五組を超える課税移出数量があるものと認定し、これを前提として課税した部分は違法である。

四、 結論

以上によれば、喜一郎がその製造場から移出した第一種および第三種まあじやんに対するトランプ類税について、被告がなした本件更正処分(裁決により一部取消された後のもの)は違法というべきであるから、原告の請求はこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 寺崎次郎 裁判官 吉野孝義)

別表一-1

<省略>

別表一-2

<省略>

別表一-3

<省略>

別表二 第一種まあじやん月別移出数量計算表

<省略>

別表三 第三種まあじやん月別移出数量(申告額 被告主張額)計算表

<省略>

別表四 第三種まあじやん移入数量明細表

<省略>

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